ドラマ「赤と黒」のみどころのひとつが俳優たちの名演。なかでもカリスマ的な魅力で物語を引っ張っていくのが、復讐に燃える主人公シム・ゴヌクを演じたキム・ナムギルだ。大ヒット時代劇「善徳女王」の悲しい宿命を背負った風雲児ピダム役で一躍ブレイクしたのち、ドラマ初主演作としてナムギルが選んだのが「赤と黒」。大人の男の色気を漂わすシャープなルックスが役柄にぴったりなのはもちろんのこと、まなざしひとつでゴヌクという人間のミステリアスで多面的な魅力を見事に表現。イ・ヒョンミン監督に「彼以外のゴヌクは考えられない」と言わしめた。日本でTV放送が始まるや、番組の公式HPの掲示板には‘ゴヌク=ナムギル堕ち‘した視聴者の絶賛の声が殺到、DVDレンタル店ではナムギルの過去の出演ドラマや映画がいっせいに貸出中になる、というシンドロームを引き起こした。一方、そんなゴヌクが敵と狙う財閥グループの後継者ホン・テソンを演じるのは、「コーヒープリンス1号店」でクールなワッフル王子を、「アンティーク~西洋骨董洋菓子店~」で魔性のゲイを、そして最新作「メリは外泊中」ではチャン・グンソクの恋のライバル役を好演したキム・ジェウク。モデル出身の都会的な雰囲気を武器に、愛に飢えた御曹司役に挑戦。これまでとは違う一皮剥けた演技で新たなファンを獲得した。日本に‘空前の韓流イケメンブーム’が吹き荒れるなか、2大若手イケメンの競演が「赤と黒」の魅力を華麗に盛りたてる!
貧しくも幸せだった子ども時代。優しい両親から引き離され、ヘソングループの会長の隠し子としてお屋敷に迎えられた少年テソク。だが、DNA鑑定の結果、ニセ者の烙印を押されると、野良犬のように容赦なく屋敷から叩き出される。成長したテソクはシム・ゴヌクと名前を変え、大切な両親を奪い、自分の人生を狂わせた奴らに接近していく。復讐のための緻密な計画、誘惑され翻弄される女たち、複雑に絡み合う愛と憎しみ、次第に明かされていく真実、そして予想をはるかに超えた驚愕のラストシーン…まるでジェットコースターに乗ったように、一度はまったら最後まで逃れられない「赤と黒」ワールド。切なくも激しいラブストーリー、サスペンスフルな復讐劇、哀愁たっぷりのノワールが絶妙なバランスを保ち、見る者をぐいぐい引き込んでいく。また、フランス映画の名作「太陽がいっぱい」がモチーフになっていることも見逃せない。スタントマンのゴヌクが撮影中の映画のタイトルが「太陽がいっぱい」。ホテルに飾られている絵画の題名も「太陽がいっぱい」。傲慢セレブの象徴としてのヨット、遊び人の御曹司を海外から連れ戻すために雇われる設定、ターゲットへのなりすまし、そして狙った女性を虜にする美貌の主人公など、全編にわたってオマージュが散りばめられている。イ監督はキム・ナムギルに「太陽がいっぱい」を見せ、アラン・ドロンの演技を参考にするように伝えたという。ナムギルの暗いまなざしと危険すぎるフェロモンは見る者の心を否応なくざわめかせ、物語への興味とスリルを加速させる。
ゴヌクが復讐のターゲットとして最初に近づいたのは財閥の末娘モネ。一目でその虜になったモネは、乙女の初恋ならではの一途さでゴヌクを追いまわす。それが罠とも知らず…。モネを演じるのはチョン・ソミン。本作のあと「イタズラなKiss~Playful Kiss」のヒロインに大抜擢された新人女優だ。その姉で近寄りがたいオーラを放つ人妻テラを演じたのは「朱蒙[チュモン]」で知られるオ・ヨンス。ゴヌクとテラ、大人のカップルによる禁断の逢い引きシーンは、TV放送当時「官能的すぎる」と毎回大変な話題を呼んだ。そして、ゴヌクの心のよりどころとなるヒロインのジェインを演じるのは、「魔女ユヒ」から3年ぶりのドラマ復帰にして、清純な美貌で“韓国男性の理想の女神”といわれるハン・ガイン。玉の輿に憧れ財閥御曹司のテソンに狙いを定めながら、どこか自分と似たゴヌクにどうしようもなく惹かれていく…という難しい役柄を、見事に演じきった。さらに忘れてはならないのが、モネとテラの母親にしてヘシングループの影の女帝シン夫人を演じたキム・ヘオクだ。「京城スキャンダル」などで有名なベテラン女優だが、今回は上流社会の暗部を象徴するヒステリックな役柄を鬼気迫る表情で熱演、強烈な印象を残す。また、ゴヌクが唯一、心を許し笑顔を見せたウォニンを演じるのは「太王四神記」の天才子役シム・ウンギョン。シリアスで重厚な場面が多いなか、ウォニンとゴヌクのシーンだけがユーモラスな笑いと安らぎを提供。まさに癒しの存在を好演した。
日韓合作ドラマとして制作された「赤と黒」。実は2010年2月のクランクインも、場所は日本だった。撮影地に選ばれたのは下呂温泉をはじめ、名古屋の栄、四日市商店街、三重のヨットハーバーなど。キム・ナムギルがホテルの窓から名古屋城を見るシーンをはじめ、温泉シーンではキム・ジェウクが珍しく上半身裸を披露。ハン・ガインも愛らしい浴衣姿を見せている。真冬の日本でロケするからには、幻想的な雪の風景を求めたというスタッフ。ここぞというシーンには待望の雪が降り、詩情あふれる映像美に一役買った。ヒロインが訪ねるガラス工芸家の龍先生を演じたのは「のだめカンタービレ」などの演技派、豊原功補。クレージーなチンピラ、マサル役で、三浦浩一と純アリスの息子で新人俳優の三浦孝太も参加している。なお、7歳まで日本に住んでいたことからネイティブ並みの日本語を特技とするキム・ジェウクはもちろんのこと、映画「モダンボーイ」で日本人役を演じた経験をもつキム・ナムギルや、才女で知られるハン・ガインも猛練習をへて日本語のセリフに挑戦。その成果にも注目したい
「赤と黒」、といえば思い起こされるのはスタンダールの同名小説。美貌を武器に上流社会にのし上がっていく青年ジュリアン・ソレルの愛と野望を描き、1954年には稀代の二枚目スター、ジェラール・フィリップ主演で映画にもなった名作だ。韓国ドラマ「赤と黒」は、この古典小説を下敷きに、過酷な格差社会に生きる現代人を描きだした。監督は「冬のソナタ」のプロデューサーであり、「ごめん、愛してる」「サンドゥ、学校に行こう!」「雪の女王」の演出で知られる韓国屈指のヒットメーカー、イ・ヒョンミン。今回のもその演出力が認められ〈第1回アジア・レインボー・テレビ・アワード最優秀監督賞〉に、見事輝いた。「冬のソナタ」のプロデューサーだったイ監督にとって「自分が監督としてNHKと一緒に仕事をすることは長年の夢だった」という。なお、劇中でジェインたちが映画を見に行くシーンで上映されているのは、イ監督が自ら演出し、JYJのジェジュンと「華麗なる遺産」のハン・ヒョジュが共演した日韓合作テレシネマ「天国の郵便配達人」である。